金属と木が調和する「T&O」
アルファベットの「T」の形をした背凭れが印象的なT1(ティーワン)チェアをはじめとするコロンとした姿が愛らしく親しみのあるT&O(ティーアンドオー)シリーズ。 一見シンプルなこの椅子は、実は小さな工夫の積み重ねにより完成しました。
先ず特徴的なのが、スチールのステム(支柱)です。
マルニ木工はその社名の通りずっと「木工」にこだわってモノづくりをしてきました。 「木工にこだわる」=「全てを木で作る」という暗黙の了解のようなものがありました。 しかし近年、商業施設や海外マーケットの需要も増え会社を取り巻く様々な環境の変化から、 「すべてを木でつくる」という概念から離れ、「木部を美しく見せる」ために異素材をうまく活用してデザイン性と強度を確保するという考えが生まれました。 T1チェアのステムはまさにその考えを具現化したものです。
このステム、実は少し”しなり”があり、凭れ掛かるとその“しなり”がクッションの様に体を支えることで、オフィスチェアのような快適さを実現しています。 先に述べたようにマルニ木工は木にこだわって技術を蓄積してきました。スチールは畑違いです。 スチールの種類や素材感、幅や厚みといったサイズ、それらを理解し強度とデザイン性をクリアするために何度も試作検討を繰り返しました。
こうして出来上がったステムは、一枚の板を曲げてつくる背凭れと、おしりが全体的に収まるように38mm厚の無垢材を3次曲面に削り出した座面を繋げています。 木部もステムのつなぎが武骨にならないよう、少ない部品でしっかりと強度を保つ工夫もされています。
ステムはカラースチールを使用しており、その配色にもこだわっています。 ベーシックなブラック、深い森を連想させるグリーン、レンガのような茶系レッドの3色をラインナップ。 日本の住空間にもなじむように落ち着いたトーンを選択したことで、無垢の素材感との組み合わせが美しく親しみのある雰囲気を作り出す魅力があります。
シンプルなT1チェアですが、その理由の一つに、一般的な木製のチェアにある脚の強度を保つための貫(ぬき)という脚同士を繋げる部品が用いられていません。 デザインが上がってきた際に、ベテランの職人たちが強度をクリアしつつ、デザイン通りにするために頭を悩ませました。 貫のない椅子の場合、座面から“くさび”のようなもので脚を接続し補強をするのが一般的ですが、そうすると座面にその“くさび”が見えてしまい、デザイン性を損ねます。
脚と座面の接合方法について試行錯誤を重ねた結果、厳しい強度試験を見事クリアした“貫”のない美しい椅子が誕生しました。 目立たない事ですが、出来るだけシンプルに仕上げたいというデザイナーの想いをマルニの高い技術力で実現した好例です。
T&OシリーズのOスツールは座面の中心部分に穴のあいたリング形状がアルファベットの「O」を連想させます。
最も困難でこだわったことは、デザイナーが要求した形状に対し、無垢の削り出しで木目の美しさと材料の歩留まり(ぶどまり)を両立させることでした。 歩留まりとは製造用語で、使用する原料や素材の量に対して、実際に得ることができた出来高の割合のことを指し、その割合が高いほど無駄がないとう事です。 座面はデザイナー指定の厚みにする為に2枚の材料を上下に重ねて接着する必要があります。その上下の板が自然な印象になるように1枚の板を2枚に切り出して上下に接着しています。 上下の材料を揃える事で座面を削り出した時の木目ができるだけ自然に、そして綺麗に見えるように材料の歩留まりと美しさの両立を図りました。 生産性の観点だけでいえば無駄にも見えてしまうこの工程ですが、出来上がった椅子の美しさをみると必要な工程という事がわかります。
座面形状は、身体にフィットさせるため、おしりが全体的に収まるように中央部分が窪んでいる3次元曲面に削り出しをすることで、快適な座り心地を実現しています。
座面中央部分の長穴に手をかけると持ち運びがしやすく、丸く削り込まれているので手触りが良好です。細部にまでこだわるマルニ木工ならではのものづくりはこういった箇所に表れています。
T&OシリーズはMidとHighの高さもあり、色々なシーンでの使用を想定したシリーズです。 スツールMidとHighの脚をのせるステップ部分には塗装が剥がれても錆び難いステンレスパイプを採用しています。 このステップとステムは凹凸感のあるパウダーコーティング(粉体塗装)で仕上げています。 その理由はデザインアクセントだけではなく、強度を確保する意図や、一般家庭だけではなくカフェや空港などの商業空間で靴を履いた使用シーンも考慮しているからです。
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