【鳥羽周作×山中洋対談 第1弾】一流の「料理×インテリア」が生み出す、至高の体験
架空のホテルのレストランをコンセプトにしたレストラン「Hotel’s」。 閑静な青山の一角にあるこのレストランを手掛けるのは、ミシュランガイド東京2020から三年連続一ツ星を獲得した代々木上原のレストラン「sio(シオ)」オーナーシェフであり、 「sio株式会社」「シズる株式会社」代表取締役社長の鳥羽周作さん。
鳥羽さんは、マルニ木工のチェア「Tako」(深澤直人さんがデザイン)を、「これ以上の椅子はない」と出会ってわずか30分で即決し「Hotel’s」に採用してくださったとのこと。
今回は、そんな鳥羽さんとマルニ木工社長・山中洋の対談が、「Hotel’s」の個室で実現。前後編の2本立てでお届けします。
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「100年先も座っていられる最高の椅子」で食べてもらいたい
鳥羽 今日は楽しみにしていました。Hotelʼsはもはや、Takoを基準につくられた、この椅子の魅力を堪能するためのショールームと言っても過言ではないですから。このレストランはホテルをコンセプトにしてるんですけど、ホテルって最高級のリラックス空間だから、とにかく椅子にはこだわらなければいけません。レストラン経営者として僕はインテリアに相当うるさいんですけど、HotelʼsにとってTako以上に最高な椅子はないと思っています。
山中 非常に嬉しいです。弊社のショールームで椅子を体験してもらうのも良いのですが、やっぱりこういう素晴らしい飲食店に置いていただいて、 食事を目的にいらっしゃったお客様が「気づいたら2時間経ってたけど、椅子の座り心地良かったね」と感じてくださるのが一番だと思っています。
鳥羽 お客様のなかには、ここで座って食べて「マルニさん良いね」ってTakoを購入する方が、実際に結構いるんですよ。
山中 15年ほど前に発表して、マルニ木工のアイコンになっている「HIROSHIMA」を超える椅子をつくりたい、と3年の歳月をかけて、タッグを組んでいるデザイナーの深澤直人さんと満を持して出したのが「Tako」でした。
椅子って道具に過ぎなくて、単体では成り立たない。人が座って、食事や会話がはじまったとき、その一助となることで役割を果たします。 だから「主張しすぎない」ことがTakoの重要なテーマ。もちろん、空間の質を高めるための佇まいでなければならないので、造形にもかなりこだわっているのですが。
鳥羽 「主張しすぎない」というその奥ゆかしさが、Takoには完璧に表れていますね。 それが、極限までそぎ落とした究極の機能美に繋がる。木部の接ぎ部分の滑らかさひとつとってもそう。 これは100年後に座っていたい椅子なんですよ。
僕が一番のセールスマンになれるーー鳥羽が考えるTakoの魅力
山中 以前、鳥羽さんは、自分の空間にあるものはすべて自分の目で確かめているから、自分が一番のセールスマンになれるとおっしゃっていた。 鳥羽さんがTakoのセールスマンだったら、どんな言葉で商品を紹介しますか?
鳥羽 Takoは「椅子の役割を越えちゃった椅子」。山中さんも言っていたように、椅子って道具にすぎないはず。 なのに、Takoは座るだけで人が幸せになっちゃうじゃないですか。僕からするとTakoは椅子じゃなくて「人を幸せにするプラットフォーム」なんですよ。 好きすぎて、家でも使っちゃってますもん。セールストークというか、本気でそう思っていますね。
山中 出会ってすぐ、即決してくださいましたよね。広島の工場まで来ていただいて。
鳥羽 僕がマルニさんのインテリアを選んでいるのは「名ブランドを置いておけばミシュラン獲りやすいよね」みたいな、表面的な理由じゃないんですよ。
プロダクトの質はもちろんですが、工場で見たマルニ木工で働いている職人さんたちの想い、100年近いなかで積み上げてきたプロダクトの歴史、 「世界の定番をつくる」という理念、そして山中さんが好きなんです。もうマルニ木工に就職して、社員になって宣伝したいんですよ。
山中 ぜひ、お願いします!
全ては「シズる」かどうか
山中 鳥羽さんはレストラン運営にとどまらず、食文化に幅広く貢献するために「シズる株式会社」を立ち上げられていますが、あらためて、社名の由来は?
鳥羽 ステーキとか目玉焼きとか、ジュージュー音を立てるものを英語で“sizzler”って言って、 日本でも食欲をそそるもののことを「シズってる」と表現したりするんです。 僕の会社では、判断を常に「シズっているか=自分や世の中がワクワクするか」で決める。 クリエイティブの源は感覚的・身体的なワクワクで、そういう楽しさがないと意味がないと思っています。
山中 大事なキーワード。自分たちが心からワクワクしているから、一緒に仕事する方々にも、お客様にも、熱が伝わるんですよね。
鳥羽 うちの会議では「それ、シズっている?」って言葉が飛び交うんです。僕らの行動指針は超シンプルで、シズっているならやる、シズってないならやらない。それだけ。
僕は埼玉県の戸田市に住んでいて、戸田市のPR大使をやっているんですけど、お金は一切もらっていないんです。自分の住む街に美味しいお店が増えたらと思うとワクワクするからやってるだけ。戸田市の居酒屋に、マルニさんの椅子置きたいなぁ。
山中 どうしても長くやっているとそういう感覚が薄れていくので、気を引き締めなければいけないですね。 もうすぐマルニ木工は100周年を迎えますが、いつまでも「今やってることは、シズっているのか?」と自分たちに問いかけ続けるような姿勢でいたいです。
構成:守屋あゆ佳
写真:藤村全輝
編集:黄孟志
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2022/2/25