talk about kupu sauna|STORY02-side of maruni 工芸の工業化から、サウナの工芸化へ。マルニ木工の新しい挑戦
世界中で愛される椅子と同じ工場で、いまサウナが作られています。本実(ほんざね)で組まれた吉野檜のパネル、触れた瞬間にわかるドアハンドルの質感、湿度と熱に耐えるための構造とディテール。kupu sauna は、「工芸の工業化」を掲げてきたマルニ木工が、その哲学をサウナという新しい器に移したプロジェクト、新しい木工のかたちです。
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マルニの視点から見ると、今回のプロジェクトはかなり“飛び道具”に感じられますが。なぜ、サウナだったのでしょう?
株式会社マルニ木工 代表取締役社長 山中洋(以下、山中)
社内で「サウナやります」と言ったときは、正直シーン…でしたよ(笑)。でも僕自身、前から「木とどう付き合っていくか」「国産材をどう活かすか」を考え続けてきたんです。マルニは「工芸の工業化」を掲げて、職人の手仕事と精密な機械加工を組み合わせてきた木工家具メーカーです。
世界中で使われている椅子やテーブルを作りながら、その裏では常に「素材」「構造」「量産性」を同時に成立させることに挑戦してきました。
その延長線上で、「家具の隣にある新しい領域」としてサウナが見えてきたんです。
輸入の広葉樹に頼りきりではなく、日本の森にある針葉樹もきちんと価値化したい。でも、柔らかい杉や檜は家具としては傷がつきやすく、難しい側面もある。
一方で、サウナは“裸で触れる空間”なので、むしろ柔らかさや香りがプラスに働く。そこで「国産の針葉樹を、サウナという形で使う」という発想が生まれました。
吉野檜を選んだ理由も、その文脈にあるわけですね。
山中 そうですね。吉野檜を選んだのは、材としての性能もありますが、それ以上に「人」でした。
森を管理している永田(えいだ)さんたちが、本当に子どものように木を大切に育てている。今回は製材所経由ではなく、その方たちから直接ヒノキを買い付けていて、「自分たちの森の木が、こういう形で使われている」と目で見てもらえる関係性になっています。彼らは呼んでいないのに(工場に)見学に来て、じっとサウナを眺めていたりするんですよ。愛を感じる(笑)。そういう“人ありきのものづくり”は、マルニの家具づくりとも共通しています。

マルニ木工の強みは、どんなところで発揮されていますか?
プロダクトデザイナー 熊野 亘さん(以下、熊野)
kupu sauna の外板は、全部本実(ほんざね)で組まれた吉野檜のパネルです。一本一本の寸法や断面形状を決めて、モルダーで正確に削っていく作業は、かなり高い精度が必要です。
さらに、バレルサウナの構造をアップデートして、「直線で立ち上がり、上だけアールをつける」という独自のプロファイルにすることで、壁に寄せやすく、デッドスペースの少ないサウナになっている。これは完全に木工メーカーならではの設計だと思います。
山中 家具でもそうですが、マルニは「見えないところほど、ちゃんと作る」文化があります。例えばストーブ周りの防熱。見た目だけ木で囲ってしまうと危ないので、不燃加工された木材を使って、見た目と安全性を両立させている。
サウナの中に長くいると、その間ずっと“細部”が目に入りますよね。だからこそノイズを減らして、クリーンなディテールにすることを徹底しました。

熊野 “触れる部分のクオリティ”も、家具づくりの延長です。ドアハンドル、ベンチの角、背もたれの角度。
ヒノキは針葉樹の中でも比重が高め(約0.4)で、実はサウナの本場フィンランドで愛用される『アスペン』とほぼ同じ密度なんです。
これより比重が重いと熱を溜め込んで肌が火傷しそうになりますし、軽いと耐久性が落ちてしまいます。ヒノキは適度な空気を含んでいるため、高温のサウナ内でも『熱すぎず、冷たすぎず』、人肌のような温かさを保ってくれます。
本場のアスペンにも負けない優しい肌触りと、日本独自の高い耐久性と香り。そのすべてをバランスよく備えているのがヒノキなのです。
マルニのファンの反応はいかがですか?
株式会社Libertyship 代表取締役 揚松晴也さん(以下、揚松)
新宿伊勢丹でのお披露目イベントの時、ずっとサウナの室内を眺めているお客様がいました。スタッフに聞いたら「いつもマルニの椅子をチェックされているお客様」で、サウナの中でも同じようにディテールをじっくりと見ていたそうです(笑)。
山中 マルニのファンからすると「マルニが作った空間の中に、全身で入れる」体験って今までなかったんですよね。椅子に座るのとも、ショールームを見るのとも違う。kupu sauna は、マルニの木工の粋を“全身で浴びる”プロダクトになっていると思います。

家具づくりの現場から見た、今後の広がりについても教えてください。
山中 工場では、家具を作る過程でどうしても端材や木くずが出ます。
これまではボイラーで燃やすしかなかったものを大鋸屑(おがくず)から糸を作って、生地にするプロジェクトも動き始めています。将来的にはそれがサウナハットやマット、チェアの張地になったらいいなと考えています。同じ森から生まれた木が、サウナ本体になり、椅子になり、サウナグッズやテキスタイルになっていく。
kupu sauna は、そうした“木の循環”を象徴する存在になっていけたらと思っています。

人物写真 木寺紀雄
インタビュー・執筆 山本 晃

プロダクトデザイナー 熊野 亘
2001-2008年にフィンランドへ留学、帰国後Jasper Morrison氏に師事。2011年にデザインオフィス“kumano”を設立し、環境、機能性、地域性など、背景のあるデザインをテーマにNIKARI、CAMPER、カリモク家具、天童木工などの国内外のメーカーとプロジェクトを手掛ける。2021年にスイスのローザンヌ州立美術学校(ECAL)にて教鞭をとり、同年秋より武蔵野美術大学准教授に就任。
https://watarukumano.jp

株式会社Libertyship 代表取締役 揚松 晴也
1986年宮崎県生まれ。航空整備士、調理師、アラタナ、ZOZOグループでのEC事業部長などを経て、2019年に独立。 グローバルECやWEBメディアのコンサルティングを行う一方、地域資源を活かしたライフスタイル事業を展開。国産サウナ「ONE SAUNA」のローンチや、「AOSHIMA BEACH PARK」の運営等を手掛ける。 2024年より宮崎交通と提携し、「こどものくにビルドアッププロジェクト」を始動。「AOSHIMA PICNIC CLUB」としてグランピング施設やベーカリーレストランを有する、宮崎の新たなランドマークづくりに取り組んでいる。
https://libertyship.jp

株式会社マルニ木工 代表取締役社長 山中 洋
1971年生まれ。1994年明治大学商学部を卒業後に渡米。1998年米国オールドドミニオン大学経営大学院を卒業後に帰国し、1999年株式会社マルニ(現 株式会社マルニ木工)に入社。入社後まもなく英国の提携工場にて家具製造の基礎を学ぶ。帰国後は営業職を経て社内の様々な機能改革に従事し、「MARUNI COLLECTION」、「MARUNI60」等、外部デザイナーとの企画を積極的に推進。ブランド戦略や商品企画、セールスプロモーションの構築に携わり現在に至る。2021年株式会社マルニ木工代表取締役社長に就任。2015年家具の修理を専門とするグループ会社の株式会社マルニファニシング代表取締役社長に就任。
https://www.maruni.com/



