優雅でエレガントな「Takoアームチェア」
文字をそのままローマ字読みして、「タコ」と読むTako。開発当初から念頭にあったのは、ベストセラーとなったHIROSHIMAアームチェアを超えるものを目指すということで、それはマルニ木工にとってもデザイナーの深澤直人さんにとっても大きな挑戦となりました。
深澤直人さんから白い硬質発泡ウレタンフォームでつくられた模型が届きました。
提案された椅子とテーブルはオーガニック(有機的)な形をしていました。 美しく有機的なデザインの椅子を、どのように作ろうかと悩みましたが、まずはデザイン案の通りにつくりはじめました。
模型と3D図面をもとに杢目の方向や強度を考慮しながら進めていきます。この作業は複雑で有機的な造形を立体で読み解く力、構造や加工を熟知している者だけがなせる職人技が必要です。
試行錯誤の末、最初の試作品が完成しました。デザイナーに確認してもらう緊張の瞬間です。深澤さんから笑顔が見られてほっとする間もなく、それをもとに細部や座り心地の調整、強度試験、量産することを想定した試作など、 繰り返し納得するまで行います。この工程のすべてが職人による手仕事です。
モットーは「工芸の工業化」
熟練した職人の手によって作られた試作品とまったく同じものを工場で生産するために、もうひとつの職人技があります。それは職人の技を数値化することです。
HIROSHIMAアームチェアの時もそうでしたが、木工のプロとして椅子のどこにどんな杢目を出すかを見極めて、材料の選別を行うことはもちろんですが、Takoの有機的で美しい形を再現するために、CNC(コンピューター制御の切削機)を使って、安定的に削り出せるようにしなくてはなりません。CNCのプログラマー自身も木の特性や加工のことを熟知していないと、刃物をどこからどうやって当てて加工するかを決めることができません。様々な刃物を使い分けて繊細に加工ができるようプログラムを作る、これがもうひとつの職人技です。
すべての加工されたパーツが完成したら、それらを組み合わせ磨いて形を整えます。この磨き工程だけは人の手の感覚だけが頼りです。最終の形を決定する繊細な作業で、社内でも限られた職人しかできないとても重要な工程です。
空間に花を生ける
「デザイナーの役割としては、空間に対して空間をなしている壁と箱の担当デザイナーになるか、あるいはその綺麗になった空間に一輪の花を生ける人になるか、 どっちかは最初に決めなきゃいけない。僕はどちらかというと、今までごちゃごちゃした世界に対して空間を単純にしようと努力してきた方のデザイナーなのだけれども、 今回は整然とされてきたから、じゃあ、花を生ける方のデザイナーになりましょう。」(深澤直人さんインタビューより)
Takoのデザインは、深澤直人さんが今まで手がけた椅子とは少し異なったアプローチをとっています。 多くの方々に愛されているHIROSHIMAアームチェアは、存在感がありながらも主張しすぎることなく周囲と馴染み、 空間をすっきりと整える役割を持っています。それに対してTakoは、生活の豊かさや余裕のある整った空間の中に、彩りをそえる道具の一つとなるように生み出されものでした。
Takoが持つ空気感は、豪華なフラワーアレンジメントというよりは、床の間にひっそりと飾られた一輪の花といった方が近いかもしれません。やわらかな曲線でつながれたフレームや丸く削りとられた座面のかたち。ダイナミックで印象的なシルエットでありながら、どことなく漂う清らかな佇まいをまとっています。
Takoという名前
とてもユニークで「えっ」と驚く名前のTako。日本語を話す方ならおそらくほぼすべての人が想像するのは、8本足が自在に動く蛸ではないでしょうか。
MARUNI COLLECTION(マルニ コレクション)には、ジャスパー・モリソンさんがデザインされたFugu(こちらもそのままの通り、フグと読みます)という シリーズがあります。深澤さんは、FuguがあるならTakoもありではないかと何とも面白い発想で、2人のペアが暗黙でやりあっている、 そんな雰囲気を想像してTakoと名付けたと話されています。
葛飾北斎
ジャスパー・モリソンさんは、雑誌エル・デコのインタビューで、Takoは葛飾北斎の絵画を思い浮かべると語られていましたが、 実は深澤さんも口には出さなかったが同じイメージを持っていたようで、2人の感性の共鳴には驚かされます。
この椅子はもともと蛸をイメージしてデザインしたわけではないのですが、このユニークで何とも言えない名前は一度聞いたら忘れられません。
バリエーション
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Takoアームチェアには板座(いたざ)と張座(はりざ)の2種類のバリエーションがあります。
どちらもウェーブを描いたような美しい3次曲面に削り出された座板を使用しています。座面前方は緩やかに下方へ傾斜し、太もも裏への当たりが柔らかく圧迫感のない優しい座り心地に。おしりのあたる部分は緩やかにくぼみ、しっかりと身体を支えてくれます。
張座では、この座面の特徴を生かしつつよりクッション性のある掛け心地を実現しました。板座の上に薄いクッションシートをのせた張座は、型に入れて発泡成形をするモールドウレタンを使用しています。座るとゆっくりと沈み込む弾力性のあるウレタンです。イメージとしては、低反発マットレスや枕をご想像いただくと良いかもしれません。さらにウレタンは部位によって厚みを変え、おしりが当たる中央部はじんわりと沈みこむような構造になっています。こうした工夫により、見た目は薄く一体感のある張り上がりでありながら、快適な座り心地も実現できました。
少しずつ気に入ったものを揃えていくゆとりや豊かさは、大切なものに寄り添う時間をつくります。デザインコンセプトの「空間に花を生ける」。静かに佇む一輪の花のように、日々の風景にささやかな幸せを届けるTako、日常を彩る道具の一つとしてお部屋にそえてみるのはいかがでしょうか。