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COLUMN コラム

「本当に良い椅子とは?」地域密着型セレクト家具店オーナー3名と語る

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家具への強い愛を持ち、地域の生活者に寄り添いながら営業を続けるインテリアショップ。マルニ木工社長・山中洋は、そんなショップこそが、未来に向けて日本のインテリア文化を育てていく上で重要な存在だと考えています。今回は茨城県「Shinc lab.」、愛知県「FILT.」、愛知県「soup.」の3ショップを運営するそれぞれのオーナー様をお招きし、「良い椅子」をテーマに語り合いました。

(写真左から)

茨城県「Shinc lab.」オーナー・田中友幸さん

北欧と日本の「永く愛せる家具や雑貨」を中心にセレクトし販売するインテリアショップ。「幸せにシンク(Sync)する」暮らしに根差した町医者的なお店にしたいと考え命名。
「以前、来店したカップルに『良い椅子は人生を一緒に歩む存在になる』とお話ししたら、それがきっかけで結婚に至り、HIROSHIMAアームチェアを2脚買っていただいたことがあります」

愛知県「FILT.」オーナー・反端祐樹さん

インテリアのプロの目を通して世界基準で「良い家具」をセレクトするインテリアショップ。ライフスタイルの一部を厳選して提案したいという想いを込めて、LIFESTYLEから一部を抜粋した『FILT.』という店名に。
「販売に限らず、家具の製造から空間全体のコーディネートまでを行い、暮らしを支えています。HIROSHIMAアームチェアとセットで置いてほしいテーブルを製作したこともあります」

愛知県「soup.」オーナー・松本典之さん

“生活必需店”をコンセプトに、暮らしを豊かにする家具や日用品・照明などをセレクト。地域の方々が困ったときに何でも相談できるような存在として、20年間営業を続けるインテリアショップ。
「良い椅子が欲しいと思ったときに東京などの県外へ行くしかない時代に、地元にそういうお店があってもいいのではと思い、インテリアショップを立ち上げました。地域のお客さんとともに、インテリアに関するさまざまな経験をさせていただき、今があります」

マルニ木工社長・山中洋(聞き手)


地域の家具店オーナー3名 「良い椅子」の定義を考える

山中 本日は、皆さんと「良い椅子」について語り合ってみたいと思い、お集まりいただきました。インテリアへの強い愛情を持ち、マルニ木工の家具を取り扱ってくださっている仲間。一方で、直接お客さまに販売されているという立場で、我々と異なる視点の「家具論」もお持ちだと思います。

まずは自己紹介をお願いします。

田中 私は小学校2年生の頃に自分の部屋づくりに興味を持って以来、ずっとインテリアが好きで。春夏秋冬で模様替えをしたり、映画の世界のような空間に憧れたり。人の役に立ちたいと思って学校で福祉を学びましたが、(以前から好きだった)インテリアを通して人を幸せにすることもできるのではと考え、住宅メーカーを経て現在の仕事をしています。

反端 ブランド家具から個人の作家さんの家具まで、本質的に良い家具を探して取り扱うショップを運営しています。ショップでありながら、「スタジオ」も名乗っていて、お客様のニーズを汲み取りながら、最適な商品がなければ家具の製造を行ったり、空間コーディネートまで手掛けたり。セレクト・販売に限らず、ライフスタイルの一部を提供するような仕事を心掛けています。

松本 愛知県で20年間インテリアショップをやっていて、地域の暮らしに根付いた「生活必需店」を目指して運営しています。家具を買うタイミングは人生のライフステージが変わる3回くらいしかないので、それ以外のシーンでも、日用品や照明、ときに庭の手入れや水の詰まりなども含めて、気軽にご相談いただきながら、暮らしを豊かにするためのお手伝いをしています。

山中 みなさん、家具をただ売るだけでなく、本気でお客様の人生と向き合っていらっしゃる。
そんな皆さんが考える「良い椅子」ってなんですか?

田中 私が考える「良い椅子」のキーワードは「優しさ」です。「優しさ」には大きく3つあって、人体への優しさ、環境への優しさ、経済的な優しさ。いくら美しくても、人体に痛みや冷たさを感じさせる構造や素材では、良い椅子と思えない。とはいえ、いくらこだわり抜かれていても、1脚数百万円の椅子では万人に優しくない。これらがバランス良く組み合わさっているものが良い椅子だと思います。


反端 私は椅子を、「暮らしをつくる一番の道具」だと思っています。だから、まずは暮らしをつくるための機能があることが最重要。でも、自分が初めて椅子を買ったときに、これからの暮らしを豊かにしてくれるものとしてワクワク感があったことを思い出すと、意匠も大事ですね。どちらも兼ね備えているものが良い椅子だと思います。

松本 良い椅子という話では、座り心地などはもちろんなのですが、世代を越えて愛されることでいうと、耐久性だったり、もしも壊れたときにメンテナンスができるか、という点も大事だと感じます。良い椅子は、ずっと使い続けられるもの。マルニ木工さんのように長い歴史があるメーカーさんの椅子は、そういった部分の安心感も魅力だと感じます。

反端 家具には、劣化していくものと、熟成していくものがありますよね。

山中 皆さんの頭の中に思い浮かんでいる「良い椅子」。具体的な名称を挙げると?

反端 PPモブラーのPP68、フレデリシアのJ39、HIROSHIMAアームチェアもそうですね。「暮らしをつくる」という点において理想の3脚です。

田中 私は「優しさ」がテーマなので、カール・ハンセンのYチェア(CH24)とHIROSHIMAアームチェアですね。

松本 どのシーンで使用するかにもよりますが、仕事をするにはハーマンミラーのアーロンチェア、ダイニングシーンだとカイ・クリスチャンセンのNo.42ですね。座り心地ももちろん、眺めて幸せです。HIROSHIMAも好きなんですが、最近はTako派になってきました。アームの曲線とかが絶妙で。

山中 無理やり言わせた感があって申し訳ないのですが(笑)ありがとうございます。北欧の長い歴史があるブランドと並べていただけるのは本当に嬉しいです。実はデザイナーの深澤直人さんとHIROSHIMAをつくることになったとき、Yチェアのような世界の定番を目指そうという話をしたんです。比較対象になっているなら光栄です。Takoは深澤さんと「HIROSHIMAを超える椅子を」と言ってつくったものなので、ファンがいることは喜ばしいです。

田中 うちのお客さんの中には、旦那さんがHIROSHIMA、奥さんがYチェアという組み合わせで購入されるケースも多かったりします。

反端 良い椅子で考えると、どれも触れるというものがありますよね。

全員 (満場一致で)確かに。

これからの時代に求められる椅子とは?

山中 マルニ木工は「100年経っても定番として愛される家具をつくり続ける」ということを掲げていますが、これからの時代に求められる椅子は、どのようなものだと思いますか?

田中 日本人は、実はまだ50年〜60年しか家庭で椅子に座っていないですよね。パンデミックを機に在宅時間が長くなったこともありますし、これからインテリアに対する目が肥えてくるのではと感じます。そのときに生まれる「こうすればもっと自分のほしい椅子になるのに」というようなニーズに対して、カスタマイズできるような柔軟性が求められるかもしれませんね。

山中 確かに、服にはS・M・Lとサイズがあるのに、家具にはない。その課題感は我々も持っていて、そんな中で本日みなさんに座っていただいているHIROSHIMAのワイドサイズをつくったりと、挑戦しています。

反端 ITの発展で加速度的にモノづくりが変わり、だんだんと安くそれなりの家具をつくれる時代になっていると感じていて、丁寧につくられた木製の家具は減っていってしまうのではと危機を感じています。だからこそ、温度ってすごく大事で、素材の温度、柔らかいフォルムの温度、手仕事が加わった温かみを感じられる木製の家具がより求められ、変わらないことの良さも大事なことだと思います。

山中 コストありきで効率化し、大切なものが失われていく中で、本当に必要なものが何なのか、見極めていかなければなりませんね。

松本 製作過程におけるロスを減らし、限りある資源をどう使うかということも課題になりそうですね。SDGsなどの観点から生活者に求められるということの他、これまで当たり前に使っていた材料が手に入らなくなるということもありそうです。

山中 端材を使うことが付加価値になるなど、これまでネガティブだと思っていたものがポジティブに受け入れられる価値転換も目にしています。そういった新しい試みを成立させていくためには、販売店さんの理解も必要になるので、ぜひ力をあわせていきたいですね。我々は、樹齢80年以上の木材を使って椅子をつくっています。それで5年で壊れるようじゃ話にならない。50年、100年使えるものをつくる責任があると考えています。

接客のプロはHIROSHIMAをどう売る?

山中 ここまで皆さんの家具やインテリアに対する想いなどを伺ってきました。そして、皆さんが接客のプロとしてお客様と寄り添っていらっしゃいますが、マルニ木工の商品を販売する際、お客様に対して、どのように魅力を伝えてくださっていますか?

田中 たとえば1脚10万円以上するHIROSHIMAを販売させていただいているわけですが、当店でご購入されるお客様は、決して派手な身なりの方ではなく『物事の本質を求める方』が多いです。そんな方々に対して、言葉はいりません。まずは座ってもらう。正直、それだけで感覚的に価値が伝わる品質が、マルニ木工さんの椅子にはあると感じます。

反端 まず座ってもらうのは一緒ですね。私の場合は、LightwoodとHIROSHIMAを座り比べていただくことが多いです。Lightwoodに座ると自然と背筋が伸びますし、HIROSHIMAに座ると良い意味でダラっとする。仕事をしたいのか、友達を呼んでお酒を飲みたいのか、どういう時間を過ごしたいかによって、購入するべき椅子が違うことを感じていただきます。

松本 最初に予算で線引きしてしまうと、お客様の家具に対する価値観を変えることができないので、座っていただくことは大事ですね。店内だとどうしても姿勢を正しちゃうので、「ぜひ家にいる気持ちで崩してください」と。すると、生活における椅子の重要性、人生の長い時間を共にするものであることなどに気付き、「それならお金を出して良いものを買った方が得」と考えを変えてくださることもあります。

ちなみに、HIROSHIMAに関しては「これはApple本社でも採用されているんですよ」と補足することで、購入を決めてくださる方もいらっしゃいます。時代を牽引するAppleに日本の家具が認められたというのは、我々家具業界の人間や日本でものづくりをする方々に勇気を与える出来事でしたし、マルニ木工の家具を使うお客さんにとっても嬉しい事実となっていると思います。

山中 そうですね。Appleさんで使っていただいていることは、社員の誇りにもなったこれ以上ない出来事でしたね。

本日は非常に大きな刺激をいただきました。どうもありがとうございました。

写真:藤村全輝
編集:黄孟志

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