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COLUMN コラム

受け継がれる暮らしのつくり方【リビタ濵中亮輔×knof永澤一輝×マルニ木工Tradition Projectディレクター相馬英俊】

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2024年10月にマルニ木工が発表した「Tradition Project」と、2025年11月にリビタが始動したリノベーションマンションの協業型プロジェクト「icco+c」。
この二つの取り組みが出会い、ひとつの住まいがかたちになりました。

舞台は、東京都内のヴィンテージマンションで知られる代々木の杜ハイツ。
ここでは、リビタの濵中亮輔さん、建築設計事務所knofの永澤一輝さん、Tradition Projectディレクターの相馬英俊さんを迎えて、この住まいができるまでのプロセスと、込められた思想を追います。

住まいや家具は、どうすれば時を経ても愛着を失わず、価値を育んでいけるのでしょうか。

 

■プロフィール(写真右から)

マルニ木工 Tradition Projectディレクター 相馬英俊さん
金沢生まれ。福岡で幼少期を過ごし、その後東京へ。工藝・インテリア等のバイヤーを経て、コンセプト設計やディレクション・MDなどを行う。住まいは、古家を改修した真鶴の家とリノベーションした東京のマンションの二拠点暮らし。

一級建築士事務所knof 永澤一輝さん
1984年生まれ。岐阜県大垣市出身。京都工芸繊維大学卒業、同大学院修士課程修了。2016年菊嶋かおりとともに一級建築士事務所knofを設立。

株式会社リビタ 濵中亮輔さん
2018年にリビタに入社。プロジェクトマネージャーとしてリノベーションマンションの仕入・企画・販売を担当。

今あらためて「Tradition」を問う理由

マルニ木工Tradition Projectディレクター相馬英俊(以下、相馬)
マルニ木工は2028年に創業100年を迎えます。
現在のマルニ木工といえば、深澤直人さんデザインの「HIROSHIMA」がもっとも広く知られ、ブランドの現在地を象徴する存在ですが、HIROSHIMAもマルニ木工が積み重ねてきた歴史の礎のもとで生まれた家具です。そして、1966年から発表してきたフランスやイギリスの伝統的な家具様式を取り入れたエジンバラ、ベルサイユといった「Traditionシリーズ」も、マルニ木工がつくり続けてきた今もなお大切な家具です。

いま改めてTraditionシリーズに光を当て、現代の文脈で世の中に発表して、時代に問いかけていきたいという思いから「Tradition Project」が始まりました。

近年のインテリアは、北欧モダンやジャパニーズモダンなど、モダンであることが最良の選択だと語られがちです。でも、本来の暮らしはもっと自由で、その人らしさがあっていい。家具は人と寄り添う道具だからこそ、もっとバリエーション豊かであるべきだと思っています。

マルニ木工は、業界の大勢が「モダンが一番、無難が安全」という方向に進むなかで、モダンの対岸にある家具もつくってきました。ここで製作を止めてしまえば、技術が途絶えて復活が難しくなる。だからこそ、Traditionシリーズをつくり続けることに意味があります。

マルニ木工の祖業であるTraditionシリーズをあらためて世に出すのは、みんなが無難だと感じる選択肢に流れてしまわないためでもあります。
すべてをTraditionで揃えてほしいわけではないけれど、自分らしさを表現するひとつの選択として取り入れてもらえたら、暮らしは変わるはずです。それに、マルニ木工の家具は、自社工場で修理をしながら使い続けられます。

使い捨てではなく、経年変化を楽しみながら、次の世代へと受け継いでいける家具があることを示したい。この思いを、代々木の杜ハイツを舞台に具現化できたのが今回のプロジェクトだったと思います。

「暮らしが好き」から始まった協業

相馬 代々木の杜ハイツのプロジェクトは、始まりから印象的でした。
会議室で打ち合わせをするのではなく(knof)永澤さんの自宅に伺ったり、僕の家に来てもらったりして、暮らしの共通項やこだわりを探っていきました。リビタさんからすれば手間も時間もかかるし、一般的にはやらない面倒なところまで判定してもらったと思っています。

株式会社リビタ 濵中亮輔(以下、濵中) 
確かに時間はかかりましたが、それはお二人にも同じように手間と時間をかけてもらっているので、状況は同じだと思います。打ち合わせ自体がとても楽しい時間でしたね。

一級建築士事務所knof永澤一輝(以下、永澤) 
相馬さんのご自宅で感じたのは、生き方の自由さが、そのまま暮らしの自由さとして表れていることでした。それに、カーテンも食器もコンロも、すべてが好きなもので選ばれていると伝わってきて、とても勉強になりました。

相馬 永澤さんの住まいも、かなり自由でしたよ。堅苦しさはないけれど隙がなくて、空間の抜け感や区切り方を見て、僕と感覚が近いと感じました。knofさんとは大切にしている価値観が重なっていたので、感覚をすり合わせる必要がほとんどなかったですね。

今回のプロジェクトがうまくいった理由は、リビタさん、knofさん、マルニ木工と僕も、家という箱やインテリアが好きというより、暮らしそのものが好きという共通項があったことだと思います。
この住まいに暮らす人の日常が豊かであってほしいという願いを共有できるメンバーでチームを組めて良かったです。

3社の視線を揃えた「繋ぎ手」という合言葉

相馬 今回のプロジェクトにお声をかけてもらってもちろん嬉しかったのですが、よくよく考えたら難しい座組だと思いました。knofという建築事務所がいて、誰がどこまで何をするか線引きが難しい。

コラボレーションというのは対象への思いが対等で、誰が上か下かを外から見ても当事者も感じないほうがうまくいくと思っています。どうやったら良いコラボレーションになるかを考えて、余計なことかと思いながらも事前にコンセプトシートをつくりました。

永澤 振り返れば、相馬さんのコンセプトシートがあったから、3社の向く方向が揃ったんです。相馬さんの文章の中に「繋ぎ手」という表現があって、最終的に「繋ぎ手の杜」というデザインコンセプトにたどり着きました。「繋ぐ」とはどういうことか、何と何を繋ぐのかと会話を深めていけたことで、この空間ができあがったと思います。

濵中 コンセプトを具体的な空間に落とし込んだ象徴的な例が、キッチンの間柱とエジンバラのスツールの脚を繋ぐ仕掛けです。キッチンの印象がぐっと変わりました。

相馬 エジンバラは一度廃番になったシリーズですが、ひねるような彫刻的な脚の造形がおもしろくて、Tradition Projectで復活させるときに、当時なかったハイスツールを新たに加えてもらいました。意匠はそのままに、アイテムとして現代の暮らしに合わせてアップデートしています。

永澤 カウンターにエジンバラのスツールを置くことが決まっていたので、リビングに入ったときにスツールの脚が目に入って、視線の先に間柱が続いくことを意識しました。今回のプロジェクトは、目に入る景色が断片的にならないように、家具と建築をシームレスに繋ぐことを意識しています。家具と建築の境界をできるだけなくしたかったんです。

相馬 建築業界とインテリア業界は分業が前提なので、家具は家具屋さん、床材と天井材もそれぞれ別など境界があるのが一般的です。家づくりはスケールが大きい分、設計者は設計に集中せざるを得ないし、インテリアの領域へバトンを渡すときに、意図がこぼれ落ちてしまうこともありえます。
でも今回はバトンの受け渡しがスムーズで、お互いの感覚を共有しながら進められました。建築と家具が同じ思想でつながったので、暮らしの中のノイズが少ない空間になったと感じます。

人が集うシーンを中心に、家具と建築を考える

相馬 今回は、リビングダイニングの中心に置く丸テーブルをマルニ木工で造作しました。ネット空間が発達した時代に、人がリアルに集う場所の中心は食事の場だと思っているんですね。人が集まるシーンを中心に考えたとき、ここに丸テーブルを置きたいと考えました。
一般的には四角いテーブルを選びがちですが、この空間は最初から丸テーブルと決めていたんです。向かい合っても、隣同士でも座れるし、人数が増えればリビングの中央に動かして使える。

今回は、リビタさん、knofさんと「この空間でどんなコミュニケーションをしてほしいか」というイメージを共有できていたから、すんなりとカウンターの高さに合わせた丸テーブルの造作が決まりました。

相馬 実は別のプロジェクトで、「四角テーブルのほうが空間がきれいに見えるから」という理由で長方形のテーブルを置かれたことがありました。でもその空間は「丸テーブルのほうがコミュニケーションが堅苦しくない」と思ったんです。見た目の美しさ以上に、住む人が暮らしを楽しんで豊かに過ごせることを大切にしたかった。

永澤 完成したものは美しいほうがいい、という意識は、設計士なら少なからず持っていると思います。美しさと暮らしの楽しさは、表裏一体でもあるんです。

相馬さんが教えてくれた、文京区にある川口アパートメントというヴィンテージマンションのロビーに「家の美は心の美をつくる」という言葉があります。
本当に美しい暮らしは、人も美しくするという考え方は確かにあって、そこには設計の美しさも含まれていると思います。
一方で、美しさを求めすぎて暮らしを置き去りにすると、設計者のエゴになってしまう。どこまでを設計者が提案し、どこからを住まい手に委ねるのか。そのバランスは、いつも考えている難しいテーマです。

永澤 だからといって、美しさと楽しさを、二項対立で考えたくはないんです。暮らしを楽しくしようとしながら、同時に美しく仕上げていくことを、いつも目指すべきだと思っています。

相馬 おそらく、暮らしの楽しさ・豊かさと美しさは、対立するものではなく、どこかに融合点がある。
たとえば、いま僕たちは丸テーブルを囲んで椅子に座って話していますが、周りには畳に座っている人、小上がりに腰掛けている人、ハイチェアに座っている人がいる。もし全員が同じ椅子に同じ目線で座っていたら、ちょっと怖いんです。座ったときの目線の高さに変化があるほうが、場はずっと楽しくなります。
こういう小さなストレスをどう取り除いて、美しさとどう結びつけるかという思考を、永澤さんたちは無意識にやられているのだと思います。

時間を超えて残るものの条件は?

濵中 今回の代々木の杜ハイツのように、長く住み継がれていく住まいや家具には、つくり手がきちんと考え抜いて、誇りを持って手がけているという共通点があると思います。
時間が経っても、その姿や佇まいから、つくった人の思いや覚悟のようなものが伝わってくる。長く愛されるものをつくろうと思うなら、まずは自分たちが仕事に誇りを持って向き合うことが第一歩だと思います。

永澤 長く受け継がれていくかどうかは、最初の「思考の強度」にかかっていると思います。個人のクライアントであれば、その人についてどれだけ深く考えたか、周辺環境や背景をどれだけ丁寧に読み取ったか。そのコンテクストをぎゅっと凝縮して、空間の中に熱量として残せるかが大切です。
そこまで考え抜かれていれば、時間が経っても共感してくれる人はきっといます。

相馬 僕は消費者の立場から語ってみたいのですが、好きなスーパーマーケットに「お買い物は投票です」と書いてあるんです。
何を買うか、買わないかという日々の選択は自分の判断であり、社会への小さな投票でもある。とりあえずの買い物をせず、長く使いたいと思えるものを選ぶことは、誰にでもできる行動です。
こういう選択が積み重なった先に、新築を建て続けることが前提ではない社会があるかもしれないし、使い捨てではなく、長く使われる家具づくりが評価されるようになるかもしれない。

暮らしはその人の思考の集積だと考えると、愛着を持てるものを選び、長く使い続けるという判断の連続が良い暮らしをつくり、結果的により良い社会へつながっていくと思います。

物件撮影:Akiya MAEKAWA
人物撮影:鈴木千佳
インタビュー・執筆 石川歩

ReBITA sumai.rebita.co.jp
Knof www.knof.jp

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